腹が座る、腹が立つ、腹を割る、や、天気、元気、気取る、気張る、など『腹』や『気』を使った言葉が多くあるように、日本は古くから腹や気という概念が根底にある文化です。
武道を始め、舞や日本舞踊なども腹を中心とした動作で、体と心を一つにした動きを表現しているのだと思います。
筋力やパワーという概念と違って腹(丹田)は年齢に関係なく養えるもので、整体でも気の衰え、腹の衰えは生命力の衰え、体力の低下などとして実際に感じられるものです。
能楽などの古くから伝承される世界では、90歳を過ぎても現役、いや高齢の方がより磨きがかかった能楽師として観られるのは知られているところです。
ここでは、日本の文化の根底にある健康な心身を養うための基本をご紹介します。

正座・跪坐

作法としての正座は流派などによって様々ですが、ここでは体を整えることを目的とした正座をご紹介します。

1.両足のつま先と踵を付けて体に対して垂直にします。つま先が内側に入ったり足首が痛いのは、そちら側の腰が下がって足首を内側にこねるようにしてバランスを取る結果、足首が硬くなっているからです。

2.踵は坐骨の下側(腿側)にはめ込みます。

こうすることで強制的に骨盤が上がります。

3.丹田(下腹)に力が集まって硬くなるように腰を入れて上体を起こします。腰が入ることで内股が引き締まり下腹が充実します。

腰、骨盤、下肢の歪みを矯正した状態です。

4.跪坐はこの姿勢から指先を床に付けて踵の上にお尻を乗せた姿勢です。

5.跪坐の姿勢から腰から上は一切動かさずに、足の甲だけ正座の形にしてゆっくり腰を降ろすと3の正座と同形になります。

正座、跪坐共に続けることで、体が整い長時間できるようになります。

膝行・膝退(しっこう・しったい)

膝行・膝退は神事や宮廷装束での作法として、神前や高位の人の前を立ち上がって移動しないための所作です。

正座(跪坐)の姿勢を崩さずに静かに動くので、丹田に力を集め腹の力を養うのに役立ちます。

つま先は床から離れず、体も左右に捻らず静かに移動します。

滞りなくスムーズにできると正座のまま歩いているような、ちょっと不思議ですが美しい動作です。

1.跪坐から始めます。手のひらは上を向けて腿に置いておきます。

2.片側の膝を少し立てて、前方に降ろす、と同時にもう片方の膝を跪坐のまま滑らせて、両膝頭が揃う位置に移動します。

3.と同時に滑らせてきた膝を少し上げて、2.の動作に入ります。これを繰り返して前進します。

4.膝退は膝行と正反対の動きで後退します。

膝行_video

膝退_video

最初は無理をせず、ひとつひとつの動きをゆっくり丁寧に繰り返して行きましょう。

お尻歩き

腕を振ったりしないでお尻(坐骨)で歩く動作をします。足の力や腕の勢いを使わずに、下腹の力加減によって骨盤を動かすので、腹を鍛え骨盤の可動性を良くする効果もあります。

正座や膝行が出来ない方は、まずこちらで腹の力を付けると共に、腹を使う感覚を養うことから始めましょう。

1.上体を立てて、足は伸ばし、手のひらは上を向けて腿の上に置いておきます。

2.腹の力で坐骨で歩くように進みます。

最初は後ろに向かって後退10歩、前進10歩を2セット程度から始めて、前100、後100歩くらい続けて出来るようにしましょう。

oshiriaruki_video

前進は腹と腰の反り、後退は腹と腰の前屈の動作が連動しているのが分かると思います。

和装の際、雪駄の鋲(踵の金具)の音が出るように地面を擦るようにして歩くのは、腿を上げ行進のようにして筋力で歩くのではなく、この腹の力で足を前に出す『腹で動く』動作です。

昔は日常の生活の中で自然と養えた腹や腰の力ですが、近年は畳も無くなり、椅子やソファで過ごす生活が主流なため、正座や跪坐をすることもなく、床から立ち上がることさえ大仰なほど腰や腹の力がなくなっている人も多く、そのためこうした力をわざわざ体操などで作らないとならなくなりました。

これらの姿勢や動作が難なく出来ることは、体の中心(正中線)に力が集まり、腹の力が充実した『心身の土台』が出来ているということです。

加えると整体操法は、その動作の全てが『腹で動き、腹で触れ、腹から力を流す』ものです。